本人は見ている [感じたこと]

認知症の人は第6感を持っているということは、既にお伝えした通りだが、これに当てはまるなぁと最近思い出した人がいる。

朝、デイサービスで迎えに行くと家族は誰もいない。廊下を進んで行くとドアの外側に鍵がされている自室がある。つまりは閉じ込められているのだ(もちろん、家族には説明したりケアマネや市の担当者にも伝えていた)。

その鍵を外してドアを開けると、全身便が付いていて、口の周りにも便・・・のご本人が待っている。当時は冬だったのでホットカーペットが敷かれており、その上にも便。強烈な臭いは言うまでもない。

そして私の顔を見るなり第一声が「甘いもの頂戴!」と寄ってくるので、送迎車までの誘導はスムーズ。

そしてセンターに到着するなり、全身の清拭と着替え。「ギャー!」「ばか!」という怒鳴り声と共に。

そのあと“甘いもの探し”を一緒にするのだが、急に頭を叩かれ、腕を抓られ、「早く!」と急かされる。その内に、歩いていても後ろにのけ反るような姿勢となり、後ろから支えないと歩行が難しくなる。そして支えている最中も「ばか!」と怒っている。

しばらくお付き合いしていると、叩かれたり抓られたりする前兆が把握できるようになった。そんなある日、その前兆を感じて避けてみた。すると「ニヤリ」と不敵な笑みを浮かべている。強いて言うなら「よく避けられたな・・・。この次は避けさせないよ!」という感じ。

私は心の中で「全部避けてやるぞ」と思い、ここに格闘家の師弟関係ができた。

ここからは師匠と弟子のようになり、やたらと私の近くに来ては“叩く・抓る”攻撃をされるのだが、徐々に避けれる回数が多くなっていった。

私も避けるのが楽しくて、わざと師匠の近くに行ったこともある。そして避ける回数が多くなると「ニヤリ」から「アハハハ!」と笑い声と変化していった。

すると今まで「甘いもの頂戴」「ばか!」の言葉しか話されなかった師匠が、「お前、なかなかやるな」と話された。

なかなか家族とも連絡が取れずに、師匠に関わる情報が乏しかったのだが、この頃“イタズラ好き”という情報が入ってきた。

それからも送迎車の助手席からギアを突然ガシャンと変える“イタズラ”があったが、私も“イタズラ”好きなので、どうも気が合う2人になって楽しんでいた。

そうなると師匠は私の側では大笑い、という光景はよくある光景に変わっていき、“叩く・抓る”は少なくなっていった。

ただ自宅環境が良いとは言えない状況だったので、迎えに行くたびに表情は険しく便×便。それでも「甘いもの頂戴」と笑顔になる。

恐らく師匠は寂しさをイタズラで表現していたのかもしれない。そのイタズラで更に寂しさが増していくことが多かったが、久しぶりに付き合ってくれる人がいた。しかも一緒にいて楽しい、安心できると感じ、表現方法だったイタズラが減っていったのだろう。

それは「お前なかなかやるな」という言葉にも表れているが、それよりも第6感で何かを感じ取っていたのかもしれない。

その師匠は、最後に自分へイタズラをして旅立たれてた。師匠らしいと言えばそうだが、何か寂しさを感じ取らずにはいられない。


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